Vol.1 波多野裕文 / page 1

——デュオ名からしてすごいインパクトで。

波多野:まず字面が強烈ですよね(笑)。いや、最初はもっとデュオ名らしいものを付けようと思ってたんですよ。会話レベルではいくつか候補は出たんですけど、でもどれもなんだか取って付けた感があって、しっくりこなかったんですよね。アルバムタイトルもそう、どれも作品のサイズ感を規定してしまうような窮屈さがあって。だったら音が想像できないもののほうがいいだろうって話になったんですよ。

——たしかに、まるで想像できないです。でも、ただごとではないぞっていうオーラはめちゃくちゃ放っていて、そういうところもお二人らしいなと。

波多野:あははははは!

——でも“作品のサイズ感を規定したくない”っておっしゃるのはすごくわかる気がします。いい意味で捉えどころのない、形の決められないアルバムだなという印象があったので。

波多野:二人ともどういうものになるのかわからない状態から始まって、未だにこれがなんなのか自分たちでもよくわかってない部分があると思うんですよ(笑)。でも、そこもすごく楽しかったし、そういうことをしたかったんだと思いますね。最初からゴールを決めて作るんじゃなく、過程の中でどんどん転がって、結果ここに着地したっていうものにしたかったんだなって。だからホント何も決めてなかったですね、あったとしたら曲数ぐらい。一応、アルバムにはしたいっていうところだけだった気がします。

——そもそもは絵莉子さんから波多野さんにコンタクトがあって始まったお話だったそうですが。

波多野:はい。“一緒に曲作りを(しませんか)”ってメールをいただいたんですけど、最初は“?”が浮かんで。橋本さん、そもそもこれまでチャットモンチーの曲の原型をひとりで作ってきた人じゃないですか。ソングライターがソングライターに、ってどういうことだろう? と。

——“デュオを組みませんか”でも“アルバムを作りませんか”でもなく、“一緒に曲を作りませんか”ってかなり漠然としてますね。

波多野:すごく漠然としてました(笑)。でも、その漠然としてる感じは作り終わるまでわりとあった気がします。たぶん言葉で答え合わせをするのがお互い、あんまり好きじゃないんだと思うんですよ。実際、やり取りしている間も、例えば歌詞について“これってどういう意味?”って一切聞かなかったし、えっちゃんもそうでしたしね。

——フィーリング第一、みたいな。

波多野:えっちゃんはそれしかないんじゃないかな。たぶん、全部、発端が“なんとなく”(笑)。それって勘とか本能みたいなものだと思うんですけど。もともと好きで聴いていたチャットモンチーの音楽からは、そういう要素がそこはかとなく漂っているのをずっと感じていたので、すごく漠然とした話ではあったけど、これは面白いものが作れそうだなっていう予感は最初からありました。

——それが去年の5月で、その後、お二人で打ち合わせを?

波多野:そうですね。たしか2回目の打ち合わせのときに僕が2曲ほど持っていったんですよ。「トークトーク」と、まだ歌詞のない状態の「ノウハウ」と。最初に二人でやるって決めたときに、すごく自然に呑み込めた感覚があったというか、えっちゃんがどういう曲を歌ったら面白いかなとか、いろんな妄想が自然と湧き上がってきたんですよ。なので最初の一手を自分から持っていきたいなって気持ちがあって。ホント最初の打ち合わせが終わったすぐあとぐらいにはもう原形ができてましたからね。

——おお、早い! 最初の打ち合わせではどんなお話をされたんですか。

波多野:いちばん最初は“一緒に曲を作りましょう” “それは願ってもないことです”と(笑)。ただ、具体的にどうするかは話さなかったですね。

——純粋にお互いの意思確認のみ。

波多野:そうですね、あとは世間話とか(笑)。

——ちなみにお二人とも面識は……?

波多野:ありました。2011年の“チャットモンチーの求愛ツアー♡”で対バンに誘ってもらったのが最初で、その後は僕がライブを観にいかせてもらったり。あと、ちょっと前に珍しくえっちゃんが僕のソロをフラッと観にきたことがあったんですよ。今思うと、その頃にもう、なんとなく彼女の頭にはあったのかなって。

——お互いの役割分担、例えば作曲はどっちが担当するとか、そういうのはどうやって決めていったんですか。

波多野:今回のアルバムはいくつかパターンがあって。最初はソングライター二人だし、いろんなパターンで作っていったら面白いよねって模索しながらやっていったんですけど、その中でいちばん手応えがあったのが、えっちゃんの歌詞に僕が曲を付けるというもので。最終的にはそれがこのアルバムの王道パターンになりましたね。まずえっちゃんから歌詞がメールでブン、と送られてくるんですよ。しかも添付ファイルじゃなく、本文で(笑)。

——絵莉子さんらしいです(笑)。

波多野:それがまたすごいんですよ。上手く言えないんですけど、歌詞の表現がめちゃくちゃ活き活きしていて瑞々しくて、それを見ただけですでに音楽として聴こえるくらいの感覚に陥るんです。えっちゃんの声でメロディが再生されるような歌詞というか。だから曲をつけるのにまったく時間がかからない。僕の感覚としては歌詞がすでにまとっている曲を実際の音に落としていくだけっていう。

——面白い感覚ですね、それは。

波多野:なんだろう、化石を発掘してるような感じ。すでにそこにあるから、あとは掘ればいいんだ、みたいな(笑)。そういう経験は初めてでしたね。People In The Box以外で曲を作ったことがなかったんですけど、凄まじくスムーズでした。

——波多野さんもボーカリストでいらっしゃるじゃないですか。人が歌う曲を作るっていうのはどんな感覚だったんでしょう。

波多野:不思議なことに、あんまり特別なことをやってるっていう感覚はなかったですね。今回、改めて思ったんですけど、僕は本当に作曲が好きなんですよ。だからえっちゃんから歌詞がきたときなんて、めちゃくちゃ面白いオモチャを与えてもらった子供みたいな感じで(笑)。ホントなんの雑念もなく曲作りを楽しんでました。

——こういうふうにしてやろう、とかもまったくなく?

波多野:そう。“ここに俺らしさを入れて、二人でやってる感を出そう”というふうに打算の入る余地もなく、ただ熱中してるだけでした。プリプロでえっちゃんの声が入ったのを聴くのがすごくうれしかったです。“ああ、これこれ!”っていう感じ、えっちゃんが描いていた世界はこれだよねって想像していたものが、実際に目の前に立ち上がってくるというか。

——絵莉子さんから曲について何か感想をもらったりもされていたんでしょうか。

波多野:大体“すごい!”でした(笑)。曲を送ると“すごい!”って返信が来て、それでホッとする、みたいな。でも、それで伝わるんですよね。1曲目の「作り方」っていう曲は、まさにそういうことを描いていて。

——“from bridge to wave” “from wave to bridge”っていう。“bridge”が橋本さん、“wave”は波多野さんですよね。

波多野:このアルバムはどの作業ひとつとってみても、ホント過程がすべてっていう感じがします。例えば、レコーディングでも現場にいる誰かひとりのイメージに狙いをつけようとするとあまり上手くいかないことが多くて、なので途中からはやり取りの中で起こったハプニングにみんなで群がるというか(笑)、そんな感じが最初から最後まで一貫して現場にあった気がしますね。もちろん、その時々で“こうしたいんだよね”っていうのは出てくるんだけど、それは枝葉のレベルというか。途中で“やっぱりこっちじゃないかも”ってなったら、また別のほうに行ってみたり、そういうふうにやってました。

——そういうゴールを定めないやり方の場合、どの時点で“よし、完成!”ってなるんでしょう。どこかでお互いに腑に落ちる瞬間があるとか?

波多野:それも“なんとなく”(笑)。そういうことが成立する相手は限られますけどね。着地点が決まってないと、やっぱり誰でもちょっと怖いですから。ただ、僕も橋本さんもそういう神経が焼き切れてるんだと思うんです(笑)。たぶん、どうにかなるって思ってる。

——とりあえず走りだせばどこかには着くだろう、と。

波多野:うん、そういう感じでした(笑)。